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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)2726号 判決

原告

本間武

被告

富盛順彦

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「当庁昭和五〇年(リ)第四〇号配当手続事件について当方が作成した配当表中、被告に交付すべき金七万三〇四三円の部分を取消し、右金員を原告に交付する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は訴外種市裕に対し、当庁昭和三九年(ワ)第八二八八号貸金請求事件の確定判決に基く貸金元本二六万二四二七円及びこれに対する昭和三九年八月二五日から昭和四九年一二月一六日まで年三割六分の割合による遅延損害金九七万四二四三円の合計一二三万六六七〇円の債権を有しているが、右判決に基づいて同庁に強制執行の申立をしたところ、昭和四九年一二月二五日、種市所有の有体動産の差押えがなされた。

二、被告は昭和五〇年一月一〇日、種市に対して左記の貸金債権を有すると主張してその元利合計一六九万八〇〇八円について配当要求をなした。

貸付日 昭和四七年三月五日

貸付金 金一三〇万円

弁済期 昭和四九年三月四日

利息 年一割

三、原告は同年一月一三日、種市に対する被告の前記債権を債務者である種市に代位して、これを認諾しない旨を執行官に申立てた。

四、被告は執行官から右申立の通知を受けながら、民事訴訟法第五九一条第三項に定められた期間内に種市に対する債権確定の訴を提起しなかつたので、被告は本件の配当から除斥されるべきものである。

五、前記差押の差押財産の売得金合計は金二五万二八〇〇円であつて、原・被告双方の債権額合計に足りず、その分配について協議が整わないため、執行官は同年二月七日、売得金を供託すると共に当庁に事情届出をなした。

六、右事情届は当庁昭和五〇年(リ)第四〇号事件として受理され、同事件の配当手続において別紙記載の通り配当表が作成されたのであるが、原告は同年三月二八日の配当期日において、右配当表に記載された被告に対する配当額は、被告の配当要求債権は存在しないから全額原告に配当されるべき旨の異議を述べたが、被告は右異議を否認した。

七、しかしながら、被告の種市に対する前記債権は、強制執行を免れるために種市及び被告が相謀つて被告が種市に金員を貸付けたように仮装した虚偽のものである。

八、よつて原告は被告に対し、第四項又は前項記載の事由に基づいて請求の趣旨記載通りの判決を求める。

と述べ、〈以下省略〉。

理由

一請求の原因中、第一項ないし第三項並びに第五項及び第六項記載の事実は、いずれも本件記録上明らかである。

二そこでまず、差押債権者が債務者を代位して執行力ある正本に因らずに配当要求をした債権者に対して当該債権の認否(民事訴訟法第五九一条)をなすことの可否について検討するに、当裁判所はこれを否定すべきものと解する。即ち債務者の訴訟上の行為のうち、実体法上の権利、利益を主張する形式としての訴訟上の行為(一般の訴の提起や、請求異議の訴、第三者異議の訴等はこれに含まれる。)は債権者が代位し得るものであるが、債務者と第三者との間に訴訟手続、執行手続が開始した後においてその手続を追行するための債務者の手続上の個々の行為は、実体法上の権利を行使するのではなく、専ら裁判上の手続進行のための制度として訴訟法上認められるものであるから、かかる行為をなし得る者の範囲もその規定のみによつて決すべく、これに対する債権者の代位はできないものと解すべきである。債権認否の手続はこの後者に属するものであるから、本件においても原告のなした代位にその効力を認めることはできない。

被告の主張する配当異議の手続は、異議が完結しない場合に異議を申立てた債権者から訴を提起することを要するから、本件のような場合には債権認否に代位が認められるより不利であり、配当異議の制度があるから債権認否に代位を認める必要がないとは言えないであろう。むしろ前述の通り、専ら代位の目的となる権利の性質から判断すべきものである。

従つて原告が債務者を代位してなした被告の債権を認諾しない旨の前記申立はその効力を認めるに由なく、執行官から右申立があつた旨の通知を受けた被告が民事訴訟法第五九一条第三項所定の期間内に債務者種市に対する債権確定の訴を提起しなかつたことをもつて配当手続から除斥されることはなく、この点に関する原告の主張は失当である。

三次に原告の通謀虚偽表示の主張について検討するに、被告の種市に対する債権が仮装のものであることを認めるに足りる証拠は何ら存しない。従つて原告の右の主張もまた採り得ないものである。

四以上の次第であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(倉田卓次 井筒宏成 西野喜一)

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